東京高等裁判所 昭和34年(う)2394号 判決
被告人 吉川四朗
〔抄 録〕
検察官の事実誤認の控訴趣意について案ずるに、原裁判所は、本件起訴状記載の公訴事実第一、第二の内被告人が選挙運動者及び選挙人に対し投票並びに投票取纒め等の選挙運動方を依頼してその報酬として清酒、肴等をそれぞれ提供して饗応したとの点について、右第一の場合は被告人の妻吉川広子が饗応した事実はこれを認めるに足るが、被告人が単独又は妻と共謀した事実についての証明は十分でなく、又第二の場合は被告人の妻が持田雪雄と共謀して饗応した事実はこれを認むるに足るが被告人が持田雪雄と共謀した事実についてはその証明は十分でないから、右第一、第二の饗応の部分についてはいずれも犯罪の証明が十分でない旨判示していることは所論のとおりである。しかしながら、記録によつて原審に現われた各証拠を検討し、当審における事実取調の結果を参酌してこれらを総合すれば、先ず右第一の饗応の事実については、昭和三四年三月十一日被告人方において斉藤鶴雄等選挙運動者が参集して被告人の当選を得るため将来の選挙対策が討議され、被告人方の酒肴等が被告人の妻により提供され出席者により飲食されている席上、被告人はその席に出て自己のため投票並びに投票取纒め等の選挙運動方を依頼する旨の挨拶をし、右酒肴等の提供されていることを認識しながらこれに反対するとかこれを止めるとかすることなく、かえつて被告人自身出席者に酒肴等をすすめている事実が認められるのであつて、以上の情況にある場合被告人はその妻と右饗応につき意思連絡があり、これに基いて饗応したものと認めるのが社会通念上相当であるといわなければならない。次に右第二の饗応の事実については、原審に現われた各証拠及び当審における事実取調の結果を総合すればその事実を認めるに十分であつてこの認定に反する被告人並びに吉川広子の供述、その他関係者の供述は措信し難い。この点に関する持田雪雄の検察官に対する供述調書中の記載内容には故意に被告人に不利益な供述をしたものであるとの形跡も見受けられずむしろ合理的であり、検察官に対し迎合的であるとも見受けられないから右供述内容は信憑力あるものといわなければならない。然らば右第一、第二の饗応の公訴事実につき原判決がその証明十分でないとしたのは事実誤認をおかしたものというのほかなく、しかもその誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから論旨は理由があり、右各饗応の所為は原判決が有罪と認定した各事前運動の所為とそれぞれ一所為数法の関係にある行為として起訴されたものであるから結局原判決は全部破棄を免れない。
(長谷川 岡崎 白河)